なんの変哲もなかったボックスがチャンピオンベルトに変わる日

「愛プロレス博」が名古屋のド真ん中で20周年記念大会を開催。全盲のプロレスラーが丸藤と対戦!
鈴木健.txt 2026.10.29
誰でも

11月1日、名古屋のプロレスシーンを代表するイベント「愛プロレス博」が20周年を迎え、初となる野外興行を開催する。会場は久屋大通公園のメディアヒロバ。テレビ塔の真下にあり、街のド真ん中へプロレスをブチ込もうという、アニバーサリーにふさわしいプロジェクトだ。

名古屋・栄のド真ん中、メディアヒロバでプロレスがおこなわれる(愛プロレス博クラウドファンディングより)

名古屋・栄のド真ん中、メディアヒロバでプロレスがおこなわれる(愛プロレス博クラウドファンディングより)

愛プロは2006年11月11日にZepp Nagoyaにて第1回大会がおこなわれた。スポルティーバ・エンターテイメントが設立されるよりも先で、もともとはスポーツバーだったのが、地元のインディープロモーションやその選手たちが代表の斉藤涼氏(現・会長)を頼って集まるようになり、自ら興行を手がけたのがはじまりである。

コロナ等の影響で中断した時期もあったが、ローカルプロモーションが主催、運営する形で20年間続いてきただけでも偉業といっていい。現DDTの彰人や、格闘探偵団・阿部史典、フリーの岩本煌史らは、愛プロのリングでデビューを果たしている。

さる5月3日、今池ガスホールにて「ONE TEAM」のサブタイトルのもと、全員が一丸となり今年の愛プロをおこなった。メイン終了後に20周年記念大会の開催と、全盲のレスラー・大舘裕太(おおやゆうた)と丸藤正道の一騎打ちを発表、場内はどよめきに包まれた。

この時点で会場に関しては明かされなかったが、内々にはプロレス初進出となるメディアヒロバと斉藤会長より聞いていた。今回、野外にこだわったのは「もっと多くの人にプロレスを届けたい。往来の人たちがふと足を止めてリングでおこなわれているプロレスが見られる…そんな場所で開催したかった」からだ。

この大会は有料席を設けるとともに、その周囲からは無料で観戦できる。たまたま日曜にショッピングへ来た人たちも、プロレスのリングがあって試合が繰り広げられていれば立ち止まるだろう。

9月2日に東京ドームシティラクーアガーデンステージでおこなわれたウナギ・サヤカ自主興行も同じ形式で、アンドレザ・ジャイアントパンダの出現に驚く通りすがりの方々が、歩を止め思わず見入っていた。その上で、有料席もちゃんと埋まった。

今回、愛プロを開催するメディアヒロバは何も備品がない。そのため有料区画を仕切る柵や客席のイス、事前待機用のテント、テーブル、音響などの興行に必要なものすべてを自前で賄う必要がある。

そうした実情を考慮すれば、すべてを有料入場者扱いとした方が絶対にラクなのだが、斉藤会長はそれより一人でも多くの名古屋市民にプロレスと出逢ってもらう方を選んだ。ファンの協力を仰ぐべく、クラウンドファンディングを実施。9月25日~10月23日の期間内に目標金額の78%にあたる235万9929円の支援を得られた。

斉藤会長は、20周年記念大会のタイトルを「愛プロレス博2026~PRIDE OF NAGOYA」とした。在京団体やリングで活躍するゆかりある選手たちは、名古屋で産声をあげたことに誇りを持ち続けている。

また現在、所属としてスポルティーバを支えるプロレスラーたちも、東京や他の地区と比べて自分たちが劣っているなどとは思っていない。ローカルにはローカルの役割と表現方法、何よりも地元への愛がある。

当日はOBの彰人、岩本、阿部はもちろん、青木真也やウナギ、そして丸藤も参戦するが、主役となるべきは名古屋の今を担う選手たち。どれほどの大物を呼んでも、メインイベントはスポルティーバ所属同士の清水祐と石田慎也のシングルマッチでいくと、斉藤会長は決めていた。

同期の岩本が東京へ活動の拠点を移した以後もスポルティーバをけん引し、名古屋のプロレスの灯を守ってきた石田。清水は後輩にあたるが、5月3日の今池でもメインで対戦し、清水が勝って「水曜カレープロレス王座」を獲得している。

実はこの王座、ベルトがない。代わりに、ビックカメラで買った金属ケースを争ってきた。

石田から清水に移動したベルト代わりの“水プロボックス”

石田から清水に移動したベルト代わりの“水プロボックス”

「2017年末ぐらいに、僕の知らないうちに新設されていました。マネー・イン・ザ・バンクのブリーフケースみたいに、ベルトはないけどその中にチャンピオンとしての権利書が入っているっていうのもいいんじゃないかっていう話から始まって。でも、タイトルにするならやっぱりベルトを作らないとなって言っているうちコロナになって、そのまま話は進まなかったんですけど、ちょこちょこと思い出したかのようにボックスを巡ってタイトルマッチはやっていたんです」

常設会場であるスポルティーバアリーナの片隅に何気なく置いてあったボックスをチャンピオンの象徴と見立て、それを獲得するためシャカリキになるというのもローカル団体らしい。そうした中で新王者なった清水が「名古屋の未来のために」と、ベルトの製作を直訴。

20周年というタイミング的にもここだろうと思った斉藤会長は清水の願いに応じ、タイトル名称も「スポルティーバ認定PRIDE OF NAGOYA無差別級王座」と新たに、スポルティーバアリーナにおける定期戦「水曜カレープロレス」で初代王者決定トーナメントを開催。結果、提唱者の清水と石田が決勝戦へ勝ち進み、奇しくも5・3愛プロに続くメインカードとなった。

大会タイトルだけでなく20年目にして初のベルトの王座名も「PRIDE OF NAGOYA」とした点から、並々ならぬ思いが伝わってくる。強さだけでなく、誇りもぶつけ合えという選手たちへのメッセージがこめられているはずだ。

ベルト新設により、水プロボックスは封印される。それでもこの約9年間、スポルティーバでの激闘を刻んできたことに変わりはない。当日は、ピッカピカのベルトへ名古屋のバトンを渡すべく、会場内のどこかでその行方を見つめるだろう。

そして、メインとともに注目されるのが大舘と丸藤のドリームマッチ。このカードは、話題性だけで組んだのではない。

5・3今池の「愛プロレス博」で発表された大舘と丸藤の一騎打ち

5・3今池の「愛プロレス博」で発表された大舘と丸藤の一騎打ち

年ほど前、丸藤がプロモーションで名古屋へ来たさい、スポルティーバアリーナへ寄ったことがあった。そこで斉藤会長が全盲でありながらプロレスラーを目指す大舘を紹介。

10分ほど練習する姿を見た丸藤は、帰り際に「彼がプロレスラーになったら僕、やりますよ」と言い残した。その言葉は社交辞令などではなく、改めて斉藤会長がオファーをかけたところ快諾。方舟の天才が、目の見えない相手とプロレスで対話することを望んだのだ。

視力があった頃、大舘は小橋建太にあこがれた。当然、丸藤の存在も追憶の中に刻み込まれている。

丸藤があの日、スポルティーバアリーナへ残していった言葉を信じて大舘は歯を食いしばってデビューを果たす。そしてその後も、対戦する日を夢見続けてきた。

「諦めなければ夢はかなう」――これは、スポルティーバが名古屋でプロレスを続けてきた20年間、変わらず唱えていることである。彰人も岩本も、阿部もみんなそれを信じて現在の地位を築いた。

「阿部は斉藤オーナーを『オヤジ』って呼ぶんですけど『オヤジが鼻高々に語れる存在でありたい』ってよく言うんです。それは、あの頃の名古屋にいた人間も、そして今の名古屋を支える選手たちもみんなが思っていることのはずです。スポルティーバでデビューしてよかったというのが僕の本心。愛プロが20年続いたというのも、実家を守ってくれているなあと思います。帰る家がそこにあるっていうのは、何ものにも代え難いですよ」

“里帰り”を果たす彰人は、そのようなことを言っていた。選手が成長すれば、より大きなステージを求め名古屋からはばたいていく。ローカル団体ゆえの宿命だ。

にもかかわらず続いた20年。誰よりも諦められぬ男が、みんなの“オヤジ”こと斉藤会長なのかもしれない。

「愛プロレス博2026 PRIDE OF NAGOYA presented by 伊藤製罐工業」

★11月1日(日)愛知・メディアヒロバ(12:00開場/13:00開始)

▼メインイベント~スポルティーバ認定PRIDE OF NAGOYA初代王者決定トーナメント決勝戦

清水佑vs石田慎也

▼スペシャルシングルマッチ

大舘裕太vs丸藤正道(プロレスリング・ノア)

▼スペシャルタッグマッチ

名島アリ&小仲=ペールワンvs彰人<DDTプロレスリング>&青木真也

▼スペシャルミックスドマッチ

一般人・澤宗紀&ジャングル叫女vs 阿部史典<格闘探偵団>&ウナギ・サヤカ

▼大野龍太郎復帰戦 

大野龍太郎&ワタナベ関羽マサノリ&801健一vs持平拡路&和氣洋輔&兼平大介<石川プロレス>

▼4WAYタッグマッチ(ノータッチルール)

大谷譲二&室田渓人vs伊東優作&高井憲吾vs樋口靖洋&長谷川智也vsやっちゃえセブン&遠州はじめ

▼澤田功太郎&岩本煌史vs堀内綾斗&ボンバー奧野<プロレスリング紫焔>

【チケット受付】sportiva07@yahoo.co.jp または参戦選手SNS等へDM

【問い合わせ】TEL090-7862-0226(斉藤)

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