いいモノを見たG1 CLIMAX優勝戦
8月16日、新日本プロレス「G1 CLIMAX 36」最終戦を取材に両国国技館へ。今年の優勝決定戦に駒を進めたのは上村優也と大岩陵平。ザック・セイバーJr、KONOSUKE TAKESHITAといった優勝経験者、辻陽太のようなIWGPヘビー級戴冠経験者がいない舞台です。

いずれも優勝戦初進出の上村と大岩。特に大岩は予選から勝ち上がってきた男
海野翔太、成田蓮、辻陽太の世代が台頭し“令和三銃士”(この呼び方を本人たちが受け入れているかどうかは別)として新時代を築くことを期待されたのはここ数年の話であり、すぐさまその下の世代が実績をあげてくる流れの速さに圧倒されます。感覚的にはオカダ・カズチカ、内藤哲也、飯伏幸太らが覇権を争っていたのは昔の話、棚橋弘至、中邑真輔となると今のファンの皆さんには大昔の出来事となるのでしょうか。
今回優勝戦に勝ち上がってきた上村は辻と同期(2017年入門)でありながら、凱旋帰国もIWGP奪取も辻の方が早かったため、あとの世代とはさまれるような立ち位置という認識で見られてきたと思われます。一方の大岩は2021年入門。20年代に入ってきた選手がシングルの最強を決めるリーグ戦のファイナリストになる時代が到来しました。
2人の一戦は、36回を数えるG1優勝戦の歴史においても特筆すべき内容となりました。大岩は自身の得意技としてヘッドロックを使っています。通常、試合の序盤で見られる基本中の基本技であり、これでギブアップを獲って勝負が決する機会は多くありません。
それこそデビューしたての新人同士の試合や、あるいは先輩レスラーが実力差のある後輩に対し「プロレスの技とは何か?」を教え込んだり、再認識させたりする場合、意図的にこの技で決める場合があります。どんな技でも100%完ぺきに決めればギブアップを獲れる。かつて、新日本の鬼軍曹と呼ばれ、多くの人材を育てた山本小鉄さんは「ヘッドロックは完ぺきに決まれば象に頭を踏みつけられたような痛さ」と表現しました。
では、なぜそんなに効く技なのにギブアップを獲れないのかというと、試合前半のまだスタミナがある段階だから耐えられるし、完ぺきに極められぬようポイントをずらしたり脱出したりと対応策がとれる。ならば、相手のダメージを蓄積させた上で終盤に決めればいいではないかとなりますが、プロレスは勝った瞬間に観客がカタルシスやエクスタシーを得られる技で決めることが望まれます。
プロレスラーの代表的な技は、その中で定着していきます。棚橋弘至のハイフライフロー、内藤哲也のデスティーノ、オカダ・マズチカのレインメーカー…みな、その技が見たくてチケットを買い、その技が見られたら「来てよかった!」と思える。
にもかかわらず、地味なヘッドロックで勝負を決めたら「なんでそんな序盤で出すような技で決めるの?」となってしまう。勝つために使う技で何をチョイスするかは、選手それぞれのセンスによるのです。
大岩は、そんな固定観念をぶち壊し「ニュースタンダード」を築こうとしているプロレスラーです。みんながやらないからこそ、じゃあヘッドロックを必殺技として再認識させてやると思ったのでしょう。ほかの人がやらないこと、それが個性たり得ます。
ヘッドロックをギブアップが獲れる技として定着させるには、一過性のものではなく使い続けるしかありません。最初のうちは「これで決まっちゃうの?」だったかもしれませんが、このG1における闘いの中で「大岩が勝つならこれだよな」となり、技名も7月29日の大阪大会より「ビッグロック」に変えることで必殺技として認知されました。また、技の説得力を持たせるべく、パンパンな上半身をまとっています。
そしてG1優勝戦ではそのヘッドロックを巡る攻防が7260人の目を30分以上も離させぬプロレスへと昇華されました。立ち上がり、執ようにヘッドロックを仕掛けたのは相手の上村の方。両選手とも、立体的な技や華麗な動きもできるのですが、この試合の意義としての共通認識を持っていたのでしょう。
ほかの誰もやらないプロレス、これまでになかったG1優勝戦の形。それが、オーソドックスでトラディショナルな技を突き詰める攻防となり、表現されたのです。脱出を試みたり、投げ技で解除したりとさまざまな方法で逃れようとする大岩。そのたびに上村はさらに切り返したり、スッポンのように離さなかったりとヘッドロックで絞め続けます。その攻防だけで5分、10分と経過してく。

先にヘッドロックを仕掛けたのは上村
ようやく大岩が頭骸骨絞め地獄から脱し、逆にヘッドロックへいきますが、上村は腕攻めを根気よく続ける。どれもが通常ならば試合の序盤から前半にかけて繰り広げられる攻防なのに15分、20分に達しても続いていきます。
そして、そのやり合いを一瞬たりとも見逃すまいとする観客。脱出を試みると「おおっ!?」と声をあげ、それを封じると「おーっ!」と感嘆のサウンドが包み込む。リアクションそのものが、現場のリズムとグルーヴ感を生み出していきます。
今までに見たことがない優勝戦における攻防によって、どよめきとざわめきが途切れることなく聞こえており、その上へミックスされるように「ユーヤ!」「オーイワ!」の声援が乗せられる。両国がちょっと、今までにない空間と化していました。
つまり、現代のプロレスシーンに見慣れているファンにとって2人のレスリングは実に刺さるものとなっていたわけです。大技が出なくてつまらないとか「そんなもんは前座でやれ!」的な見方は皆無。終盤には勝つために上村がカンヌキ・スープレックス、大岩がTHE GRIP(ローリング・レフトハンド・ラリアット)といった大技も見せるのですが、難易度が高いものや雪崩式のような高いところから落とす技は出さない。
にもかかわらず、場内の熱狂度は上がりまくりで、そこからさらにヘッドロックを巡る攻防に流れてもまったくテンションが下がらぬどころかむしろ「おお、ここで!」という感じで興奮状態となる。
大岩のこだわりにも敬服しますが、上村のセンスも素晴らしかった。30分を経過したところでリストロックに捕え、もがいて脱出せんとする大岩を離さずギブアップを迫ります。
30分超えの試合が、リストロックで熱狂空間となる――なんという至高の風景なのか。

これが30分を経過したところでのシーンという衝撃!