虎ハンターの美学を今なお追い求めて
自分がやっている文章講座でもっとも肝となる教えに「文章は何を書くかよりも何を書かないかの方が重要」があります。これは、さまざまなケースにも言えることと思われます。
私はそれを「NOの精神」と呼んでいるのですが、一般的な言い方だと「ストイック」になりますか。自分のおこないに対し一定の線引きをし、美意識に反することはやらない。
プロレスラーでいうと自分に合わない技は出さない、大技を乱発しない、言葉に頼らない、一度口にしたことは貫く…こういった姿勢をまとう選手に魅力を感じます。
このtheLetterが配信される9月9日は、プロレスラー・小林邦昭さんの3回目の御命日となります。あれから丸2年が経ちました。
生前2ヵ月前まで小林さんを取材し、その証言によって上梓された私との共著『虎ハンターの美学』が発刊されてまもなく1年となりますが、今でもご本人のお手元に届けられなかった悔いが拭えずにいます。書名に関し、小林さんにはお伝えできぬままでした。

昨年10月21日に上梓した小林さんとの共著『虎ハンターの美学』
私の中では書き始める前の時点で決まっていたのですが、おそらく小林さんはご自身のプロレスラー人生で“美学”の二文字を意識していなかったと思われます。なぜならはじめに言葉ありきでそのような人生を送ってきたわけではなかったから。
2度目の癌手術でお腹に大きな傷跡が残ったため「人に見せられない体になった」と引退を決意した小林さん。自身の価値観に対し、正直な道を選んだにすぎず誰に教わったのでも、誰かの影響を受けたわけでもありません。言葉に頼らぬプロレスを続けたのも、元来の性格だったのでしょう。