待望されている方が勝てなくてもポジティブな光景を描ける団体力
8月29日は全日本プロレスEBARA WAVEアリーナおおた(大田区総合体育館)大会取材へ。なんといってもメインの三冠ヘビー級戦に尽きた。
そこで前回同様、サムライTV HP掲載された安齊勇馬インタビューを踏まえて話を進めさせていただく。その取材で安齊は、自分が立っている状況を客観的かつ冷静にとらえていた。
各メディアで大々的にとりあげられるだけでなく、主演映画の製作発表までされるほど世間に露出し、とんでもなく“来ている”真っ只中へあるにもかかわらず「今のこの波は一過性なんですよ。その中で何かしらつかまないと、過去の人みたいになっちゃう」と言い切れる27歳。それが、安齊勇馬という人間なのだ。
この波が引かぬうち、自分が名実ともに全日本のトップに立たなければならない。だから「勝負は今年中だと思っています」と、その覚悟を示した。
とはいえ三冠王座への挑戦権は、一年で何度も巡ってくるものと違う。どんなに会社としてプッシュしようが、実績とそれ以上に機運が来なければファンもそこには乗らない。
その意味で今回の宮原健斗への挑戦は、機運的には過去最高に来ていると言っていい。全日本のファンの間でも安齊待望論が高まる一方なのは、この日の空気感からも伝わってきた。
全日本の会場に足を運ばず、外から現在の“安齊現象”を眺める層は、黄色い歓声に包まれた風景を想像するはず。だが実際は、こと後楽園ホールやこの日のような大会場では男性ファンによる「アンザイーッ!」という声援も多く飛んでいる。
プロレスの外から女性を中心に新規の観客を安齊が呼び込んでいるのは紛れもなく事実だが、それだけで機運というものは高まらない。8度の防衛を果たし、三冠王座連続防衛回数新記録にあと3つと迫る王者・宮原を止めるのはこの男との認識を、今の安齊が持たれている…その方が重要なのだ。

おそらく初めて三冠王座を奪取した時以上に期待感が高まる中でのタイトル戦。安齊は躍動し続けた
このあたりは、インタビューでも話に出たチャンピオン・カーニバル開幕戦の潮﨑豪との公式戦から、安齊に対する見方がガラリと変わった気がする。宮原を破って2度目の三冠王座戴冠を果たし、チャンピオンのまま2026年の下半期を駆け抜ければプロレス内実績と、プロレス外への貢献という2つの勲章によって全日本の選手がMVPを狙える。
そうした流れを期待するファンの思いが、機運を生み出すのだ。それは宮原がいかに圧倒的な支持を誇ろうとも変えようがない事象である。
しかし――結果は宮原が、宮原らしく、宮原の世界観の中で勝利をあげる。もちろん何度となく安齊の勝機は訪れ、得意技のギムレットがサク裂時は勝負が決したと思えた瞬間だった。
ところが、その先がまだあった。試合はナマモノだから、この時点で潜在的に頭の中へあった機運が霧散する。戦前に描いていた流れやその後の展望のようなものを、目の前の闘いが超越してしまったのだ。